【特集記事】デスクトップで実現するラピッドプロトタイピング

日々新しい技術やアイディアが生まれる研究開発の世界では、いかにスピード感をもってそれらを製品として世の中にアウトプットできるかはポイントの一つとなっています。そんな製品開発の世界において求められているのがラピッドプロトタイピングを実現する手法です。

ラピッドプロトタイピングはアイディアを素早く形にする手段であり、その「高速」さを実現するには、試作そのものがいかに「手軽」であるかどうかも重要となってきます。従来は特定の企業や研究機関が所持していたような専門的で大型の試作のための機械が、最近では小型化され 個人でも入手ができるようなデスクトップタイプのものが開発されるなど、手軽さが伴ってきています。また以前は数千万円もするような機械で実施してきたことが、数万から数十万円ほどで買える装置でも可能になっていることには、技術の民営化を感じます。

今回は製品開発のスピードを加速するためのラピッドプロトタイピングと、その手軽な実現方法のひとつであるデスクトップタイプのプロトタイピング装置についてご紹介します。

 

プロトタイピングについて

製品の本格的な量産前に、まずは少数試しに作ってみることを試作 – プロトタイピングと言います。アイディアを形にし、より多くの人にその物について知ってもらうための手段であり、また設計上の問題点などはないかを確認するための手段でもあります。

試作自体は旧来より実施されてきた手法でありますが、たとえば試作の理由の一つである設計上の判断については、実物を試作することなしに CADやそのデータを用いたシミュレーションソフトなどにより判断することが可能になりました (CAE)。たとえばファンの羽根のような部品をデータとして設計し(CAD)、それが動作して回転するときに周辺環境に生じる影響をシミュレーション(流体解析)する…といったように、コンピュータ上でのみでかなり精細な評価ができるようになったと言えます。

しかし、実物を手にすることや目にすることで得られる情報もあります。例えば以下のようなものです。

  • スケール感
  • 持ちやすさ
  • 実空間に置いた時の様子
  • それを動かす体験
  • 存在している別の製品との組み合わせ確認

つまりは実際に使う時の使用感や印象を確かめるために、実物に近いものを用意する必要が出てくることになります。最終的に製品化される際には大量生産することになりますが、試作の段階ではたくさんの微調整を加えながら、少しずつ形や仕様の異なるものを1点ものとして作る必要があります。

そこでアイディアをいかに早く目に見える形にするか、いかにトライ&エラーの試作を繰り返して目指すべきものを作っていくか、そこには「高速な試作」、つまりラピッドプロトタイピングが求められることになります。

ラピッドプロトタイピングをデスクトップで実現する手法

試作の製作を業務として掲げている企業はたくさんあります。もちろんこういった企業に試作を依頼するメリットも多くあり、たとえば何千万円もするような専門的な機械を所持しておりそれが実現する精細な加工を得意としていることや、試作に精通した熟練のスタッフとの打ち合わせを通して理想のものを作り上げることができるといったことが挙げられます。

ただし、思いついたアイディアをすぐに形にする…という点では時間的な問題や、タイムリーな微調整が難しいところもあると言えます。そういった時、自分の手元で自らがオペレーターとなり試作をできるデスクトップタイプの装置は、まさにラピッドプロトタイピング(高速試作)の手法として、力を発揮します。

以下、試作の方法や使用する素材別に、デスクトップタイプの装置をご紹介します。

3Dプリンタ

使用できる素材の例 : プラスチック / 液体樹脂 / 粘土 等

近年のラピッドプロトタイピングに革命を起こしたのがこの3Dプリンタだと言えます。特にFDM方式とよばれる熱で素材を溶かし層を積み上げて成形するタイプの3Dプリンタや、光造形方式とよばれる光を照射することで素材を固めて成形していく3Dプリンタは、設置面積が小さく、素材の入手性も高く (Amazonなどで購入可能)、導入のしやすいタイプとなります。

プラスチック (PLA/ABS 等の樹脂)

The MakerBot Replicator+ / メーカーページ

プラスチックはデスクトップタイプの3Dプリンタで採用されることの多いFDM (Fused Deposition Modeling) 方式で使用することのできる素材です。フィラメントと呼ばれる、PLA (ポリ乳酸) や ABS などの素材が細い紐状になったものに熱を加えることで溶かしてノズルから絞り出し、設計図である3D CAD などのデータの通りに一段ずつ下から積み上げる形で形成していくことになります。

フィラメントには上記で挙げた PLA や ABS の他にも様々な素材の種類や色があり、パーツ毎に素材や色を変えるといった柔軟な試作も可能です。また、フィラメント製造機を用いることで、好みのプラスチックペレットで好きな色や特性をもったフィラメントが作れることに加え、試作を繰り返す中で必要の無くなった生成物を砕き、溶かし、再利用できるというエコな点も注目ポイントです。

液体樹脂 (レジン)

Formlabs Form 3 / メーカーページ

光造形方式の3Dプリンタでは、光(レーザー)をあてることで固まる液体樹脂を使用します。光造形方式ではタンクの中に満ちた液体樹脂に対し、FDM方式と同様に設計図である3D CADなどのデータの通りに一段ずつレーザーを照射し、樹脂を硬化させることで形成していきます。

液体樹脂での形成物は、表面が滑らかなことが特徴のひとつです。また、透明度の高いものを作りたい場合にも液体樹脂が適しています。

粘土

Delta WASP 2040 Clay / メーカーページ

少し珍しい、粘土を素材とした3Dプリンタもあります。人の手では忠実に再現することが難しいような緻密なデザインや構造の試作を陶器で作る場合に、FDM方式の3Dプリンタと同様に3D CADなどのデータを元に粘土を押し出し積み上げて形づくることができます。

 

なお金属を素材とした試作をすることのできる3Dプリンタもありますが、例えばFDM方式と同様に素材を積み上げるようなタイプでも、出力したものから金属以外の素材を取り除く (脱脂)、焼結する、といった作業が必要とあり、少し大型の設備となることが多いです。

なお金属 100%ではありませんが、「金属風の見た目」の実現であれば、以下のような金属粉が含まれたプラスチックフィラメントを用いることで、金属のような質感を持った試作品を作り出すことは可能です。

ColorFabb社の BronzeFill で作られた作品。研磨することで独特のツヤがでます

フライス盤

使用できる素材の例 :金属 / 木材 / プラスチック 等

フライス盤は金属などの素材の塊を回転するエンドミルで削り出し、形を作る手法 (機械)です。なかでもコンピュータ制御のものをCNCフライス盤といい、3Dプリンタと同様に 3D CAD などで作ったデータを元に、予めプログラムされた設定に沿って機械が自動で削り出しを行います。オペレーターによる緻密な削りだしの手作業が必要なく、より複雑な加工が可能となります。

例えば以下の動画の Pocket-NC は「縦(X)」「横(Y)」「奥行(Z)」「斜行(A)」「回転(B)」の合計5軸で動作し、細かく対象を削り出します。

Pocket NC V2-50

 

※ 利用可能な素材の種類はフライス盤によって異なりますので、加工対象の素材が対応しているかご確認ください

 

真空成形機

使用できる素材の例 :プラスチック

薄いプラスチックシートをヒーターで温めやわらかくして型に押し当て、空気を抜いた(真空にした)状態でプラスチックを冷やすことで成型する手法です。縁日で売られているようなキャラクターのお面や、お菓子の袋の中に入っているプラスチックトレイのようなものを作ることができるとイメージすると、わかりやすいかもしれません。

凹凸を充実に再現する立体造形が可能で、一つの型から大量に同じもの(パーツ等)を作る際にも便利です。元になる型を用意する必要があるので、型そのものは前述の3Dプリンタなどで作る必要があります。

以下は、デスクトップ 真空成型機 Vaquform DT2 のメーカーが公開している、Vaquform DT2 の使用例の動画です。靴のデザイナーが、スケッチしたイメージをもとにデザインパーツを3Dプリンタで出力し、それを Vaquform DT2 で成形、デザイン通りの靴を作る事例が、手順に沿って紹介されています。

Vaquform: from concept to product with vacuum forming

 

 

レーザーカッター (レーザー加工機)

使用できる素材の例 :木材 / 金属 / ガラス 等

木や金属板、ガラスなどの薄くて固い素材を、レーザーを照射し切り出す手法です。板状の平らなもののプロトタイピングはもちろん、パーツを切り出し組み合わせて立体物を作ることも可能です。

対象の素材へイラストやロゴなどを刻印するのに用いられることも多いですが、以下の動画の 8:23 ごろ (Muse 紹介部分) をご覧いただくと、レーザーカッターによる試作の可能性をイメージいただけると思います。

Top 5 Desktop Laser Engravers that are easy to use 2021 | From $170 to $7000

 

番外編 – アプリケーション開発におけるラピッドプロトタイピング

アプリケーション開発において、ユーザーインターフェースのデザインは重要な要素となります。特にユーザーの操作アクションがアプリケーションに反映されるインタラクティブな操作感は、そのアプリケーションに対しユーザーが感じる好印象/悪印象の評価とは切っても切れないものとなっており、もはやアプリケーション開発においては「希望の動作が実行さえすればいい」のではなく、「いかにユーザーが満足できる操作感で実行ができるか」が重要となっています。

こういったアプリケーションの操作感は本来であればプログラミングにより実装しますが、「何をどうしたら、どういった動きが生じる」というのを伝えるプロトタイピングの段階では、より手軽にプログラミングの必要なく、実現できることが望ましいです。そんな、アプリケーションのラピッドプロトタイピングを実現するソフトウェアもあります。

例えば、以下の ProtoPie というソフトウェアは、UI/UXに関するデザインアイディアを、インタラクティブなプロトタイプに素早く落とし込むことのできるプロトタイピングツールです。コードを必要とせず、オブジェクト(何が)・トリガー(何をきっかけに)・レスポンス(どうなる)という3つの要素を指定するという直感的な操作で、インタラクティブなアプリケーションのプロトタイプを作ることができます。

Introducing ProtoPie, lead the future of interactive product design

 

 

まとめ

製品開発のスピードはますます加速しており、光るアイディアを素早く形にして精査、アウトプットする手段の有無により、世の中にリリースされるタイミングにも差が生じるようになりました。ラピッドプロトタイピングは、まさにその手段だと言えます。

今回ご紹介した 3Dプリンタや真空成型機なども、もともとは加工を専門とする業者が所持するような大型で高額な機械でしたが、時代が進み技術が広まるにつれ小型化し、手に入りやすいものとなりました。これからも、ラピッドプロトタイピングを実現するためのより便利でより多くの種類の手法が、私たちの机の上に登場することになりそうです。

弊社の 研究開発者向け海外製品調達サービス「ユニポス」では、そういった世界中で新たにリリースされたプロトタイピング機器の入手のお手伝いをいたします。入手をご希望の製品がございましたら、製品名やURLなどの情報と共に、お気軽にお問い合わせください。入手の可否をお調べし、お見積りいたします。